線維筋痛症 疾患別の説明
線維筋痛症
【疾患】
検査により異常が出ないのですが、体の広範囲に慢性痛を訴える原因不明の疾患です。人口の約1〜3%ほどに存在しているのではないかと考えられています。大部分は中年の女性に発症します。慢性関節リウマチなどの膠原病に合併することも多いようで、現在はリウマチ科などが中心に対応されているようです。
症状は、慢性的な痛みや痺れなどが四肢や体幹部などにみられ頭痛なども伴います。倦怠感・こわばり・不眠・うつ症状なども起こるようです。ストレスや気候の変化などで痛みが増悪することもあります。
診断基準としては、体の広範囲に3ヶ月間以上痛みがあり、18箇所の検査部位に4kgの圧力(指圧)を加えたときに11箇所以上から圧痛がある場合とされます。
治療にはトリガーポイント注射や非ステロイド性抗炎症薬、三環系抗うつ薬などが使われますが効果は個人差があるようです。また、マッサージ・ストレッチ・カイロ・ヨガなどで一時的な症状緩和のみられる患者さんも多いようです。
外傷や病気を基点として痛みが増強して来る事も多いようで、痛みが持続し慢性痛へと移行していくようです。痛みが強いことでADL(食事・整容・更衣・移動・排泄・入浴)の障害も激しく、重度の慢性痛により寝たきりの状態になることもあるようです。
線維筋痛症と思われる患者様の多くは、慢性的に感じる強い痛みにより医療機関を受診されるのですが、MRI・CT・X線・血液検査などで異常が出ないので、診断名がつかないことが多く「大したこと無い」という扱いを受けることが多いようです。
【評価と経過】
私も正式に診断名として線維筋痛症と診断された患者様を見たことがありませんし担当したこともありません。慢性痛に対する理学療法を模索している者として、最近この疾患を本などで目にすることが増えてきていることもあり、医療関係者にも認知されてきているようで取り上げてみようと思いました。
線維筋痛症の患者様が中心となりHPなどを開設されていますので、興味のある方は詳しくはそちらの方をご覧いただき、この原因不明の疾患に一人でも多くの方のご理解がいただければと願います。
今までに私が担当した患者様の中にはこの診断名がついてもおかしくないような症状の方もいらっしゃいました。しかし、診断は出ていませんので断定できませんし、あくまで私の経験と視点(医者とは違う理学療法士として)でお話を進めさせていただきます。
線維筋痛症の患者様の手記(HPなどで)などを読ませていただいたり、線維筋痛症に伴うとされる症状などとの比較から、この診断を受けている人でも症状(慢性痛の強さや身体機能低下)の差が激しすぎる印象があります。
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痛みによりADLが困難になっている人もいれば、慢性痛はあるが仕事をして日常生活を送れている人もいます。ADLが困難となり軽い運動やマッサージ等の筋弛緩効果による症状改善がみられない人、逆に軽い運動やマッサージ等でかなり症状が改善される人を同じ線維筋痛症としてしまってよいのか?線維筋痛症の診断で症状の軽い人と筋筋膜痛症候群の症状が強い方と何が違うのか?分からないことや疑問も多々あります。
まだまだ境界線があやふや過ぎますし、原因がはっきりしないという理由から線維筋痛症の診断基準に合致すると慢性痛の問題のある方の全てが線維筋痛症として一まとめにされるのにも違和感を感じます。私自身もこれからの臨床経験の中でも注目し勉強していきたいと考えています。
以下に私がこれまでに担当した患者様の症状をご紹介しますので、検査異常が出ない方で筋肉に慢性的な痛みを感じ苦しんでいる方は、ご参考にしていただければ幸いです。
(症例Aさん)20歳代後半 女性 体格はやせ型
既往歴としては25歳の頃にぎっくり腰をした経験があります。仕事をするようになってから慢性痛を感じるようになったそうです。
「日常生活・仕事は送れていますが日常的に慢性痛を感じます。普段生活していると何かに意識を集中させているから痛みはさほど感じないことは多いのですが、集中していない時や家に帰り一息つくと体の痛みが気になります。
軽くマッサージをされても痛いです。痛い場所を自分で擦っていても「ジンジン」というか「ヒリヒリ」というか?例えるのが難しいのですが、痛みが増してきますし気分も悪くなります。痛い場所が痺れるような感じもあります。
仕事が忙しく普段より疲れると倦怠感や手足の重さを感じます。肩や腰などの痛みを強く感じる時はお風呂で温めると痛みが増すこともありますし、皮膚にあたるシャワーの刺激で痛みが増すこともあります。」
身体18ヶ所全てに4kgの圧力による圧迫で痛みが出現します。背中などは軽く触ると痛みにより逃避反応などもみられるくらいです。肩・腰・膝などの関節可動域制限は少なく柔軟性もあります。痛みの強い部位である肩・腰周囲筋の筋スパズムはあるのですが、基本的な筋緊張が低いこともあり、触診でも筋肉が硬いという感じではありません。しかし触診の軽い圧迫でも背中には筋硬結が数ヶ所ありますし、脊柱起立筋群はスパズムの影響もあり筋硬結以外の部位でも筋肉のどこを押しても少なからず痛みを感じるという状態でした。
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初期評価としては、安静時痛があり皮膚・筋への触刺激(さする刺激)・圧迫刺激では痛みを誘発しますし、マッサージ等での筋弛緩促進では疼痛悪化が予想されます。しかし、筋緊張の状態は個人差がありAさんの筋緊張を他の人と比較するのではなく、まずは痛みのある部位の皮膚・筋肉へ刺激を入れていき、2〜3回のリハビリで痛覚閾値の変化がみられるかの確認が大切であると考えました。
Aさんの場合は女性でやせ型であり、筋肉が細いこともあり刺激量に注意して筋弛緩のためのマッサージ等を実施すると痛みの誘発は最小限に止めることができると予想されました。このため、刺激量に注意しながら筋肉を弛緩させるというよりも皮膚・筋の触・圧迫刺激耐久性向上を第一に痛覚閾値の変化を本人と確認し合いながら進めていきました。
線維筋痛症だけでなく、筋筋膜痛症候群やその他外傷(骨折・捻挫・ヘルニア)の患者様など全てに共通するのですが、痛みを感じている周囲の皮膚・筋肉は触られたり・圧迫される刺激に対して痛覚過敏を起こします。痛覚閾値が低下している状態では筋・皮膚への刺激量には十分な注意が必要であり、刺激量を間違えると炎症の増強を起こし痛みを増強させてしまいます。
初期段階では軽い刺激を皮膚・筋に入れていき、皮膚・筋肉の痛覚閾値の変化を待ちました。最初は触れるような圧力でも痛みが強く出ていたのですが、数回の実施により徐々に強い圧力にも耐えられるようになってきました。痛覚閾値の変化は安静時に感じている慢性痛の改善と直接的に繋がるものではありませんが、この変化があるということは痛みに対する身体的耐久性向上はリハビリとして運動量増加に進めることが出来ると判断されます。まずは、刺激に対する耐久性を向上させ日常生活(仕事や遊び)での疲労耐久性を向上させることで活動量の向上が大事だと考えます。
初期段階では痛覚閾値が低く、スパズムにより背中は腰から首までどこを押しても痛みが強かったのですが、スパズムの軽減により圧迫しても痛みの強く出る部位と痛みの弱い部位がハッキリと分かれてきました。スパズムの軽減により筋硬結のある部位と圧迫痛の強い部位が同様であると本人も感じることができるようになりました。
運動に関しては、ダンベルを使用した訓練やエルゴメーター(リハビリにある自転車)などを使うような運動は筋スパズムを増強させ疲労感も強いので、初期の運動導入においてはあまり望ましい運動ではありません。
Aさんのような身体状態の患者様は筋肉への強い負担や持続収縮(持続的な弱い循環不全)を伴う運動では痛みが増強してしまうようです。このため、体幹を利用した運動を中心とし、収縮・弛緩の反応を促す運動形態で実施しなくてはいけませんでした。
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ポイントは動作を利用しながら自然と目的の筋肉へ負荷刺激を与えていくという方法が望ましく、その負荷刺激の組み合わせる選択をうまく行えれば筋肉は弛緩しリラックスできます。しかし、同じ運動形態でも負荷量や運動量を間違えると疲労感や痛みが強く出るので、方法の選択が非常に難しいのは事実です。
上手く運動を導入することで、筋肉を大きくする意識を持たないトレーニングが結果的にその身体部位への負荷刺激の耐久性向上にも繋がります。
一般的に体を鍛えるという認識に関しては「筋肉を鍛えていき筋力・持久力が増強したから普段の痛みや動きが改善する」という認識が主流ですが、私の臨床経験からは慢性痛に苦しむ方への運動指導では特に「適切な運動により体が楽に感じたり動きやすくなったから、普段から少しずつ動いてみようと患者様自信が思えるようになることが大切で、その結果として日常の運動量が上がり動き(歩行など)や活動量(仕事・遊びなど)が改善される」という経過が理想的だと考えていますし、その方が良い結果を出していると感じます。
Aさんは症状安定(痛み軽減)に合わせて期間を空けていき、現在は疼元庠舎で月に1〜2回程度の筋弛緩のための調整をしています。現在も安静時の慢性痛はありますし、背中の筋肉を圧迫すると痛みが出現しますが、初期の頃と比べると安静時痛も軽減し皮膚・筋へは数倍の圧力で圧迫しないと痛みを誘発できなくなりました。皮膚・筋の刺激耐久性は向上することができました。
「普段の慢性的な痛みはありますが、痛みが強くなる時は体のどの辺りが痛みを出しているかハッキリ認識できるようになりました。マッサージなどをされると今も痛いのですが、強い痛みを感じる時は痛い部分の筋肉が突っ張っているような感じも分かるようになりました。以前のように何か分からないけど体全体が獏全と痛いという感覚は減りました。」
慢性痛を完全に無くすことはできませんが、痛みを正しく捉えて冷静な判断ができることは慢性痛軽減のためには必要なことです。
Aさんより慢性痛は弱いのですが、ADL低下を起こしている患者様にも沢山お会いしました。もちろん理学療法では対処が難しいと感じる慢性痛の方にもお会いしました。それぞれに身体症状の違いはありますが、運動やマッサージ等で症状が軽減する反応がある線維筋痛症の方は、運動やマッサージ等の導入の仕方で結果は大きく違うと予想されますので、専門家と共にぜひゆっくり少しずつ前に進んでいただければと思います。
【慢性痛対策】
線維筋痛症は慢性痛を主症状とする原因不明の疾患です。理学療法士としてどこまで何が出来るのか?理学療法が本当に効果が出ているのか?自分でも分かりません。
今まで担当させていただいた患者様でも、線維筋痛症と判断されそうな症状の方は何人かいらっしゃいます。一人の理学療法士として慢性痛に対してはお医者さんのように薬剤や手術を使って対処することはできません。本当に悩みます。
線維筋痛症だけではないのですが慢性痛に苦しむ方は、検査にて明らかな異常が出ないために「大したこと無い」と判断されて、いろんな病院を回られている方が多いようです。慢性痛とうつ症状は密接な関係がありますが、慢性痛が持続しているからうつ症状が強くなるのか?本質は慢性痛を理解しない医者・理学療法士などの医療関係者や家族・知人・同僚などの無理解により慢性痛に苦しむ患者様を追い詰めて、うつ症状を強くしているのではないかと私は思います。医療が患者を作る!
特に医療関係者の慢性痛についての認識の向上は急務であるべきでしょう。しかし、慢性痛は本当に難しく、何とか少しでもよい医療を提供したいと努力している医療関係者でも手探りの状態です。理学療法士も上手く対応できないことの方がまだまだ多いのですが、自主的に慢性痛に対して勉強し努力している者も増えてきていることはご理解ください。
線維筋痛症と診断名がついている人を担当したことが無いので、無責任に慢性痛の対策は述べることができません。
理学療法としての慢性痛に対する本質は、如何に上手く体に刺激を入れていき刺激に対する耐久性を向上させるか、適切な運動を如何に導入できるかがポイントになるように思います。
線維筋痛症の患者様は多くの病院を回られた方が多いと思います。いい医者もいればダメな医者もいたと思います。理学療法士でもいい理学療法士とダメな理学療法士が存在します。大きい病院だとか小さい病院だとかも関係ありません。あくまでも患者様と向き合うその担当者自身が慢性痛への理解があり、その改善のために皆さんと共に努力してくれる人であるかが大切だと思います。
そういう意味ではドクターショッピングは意味のある行為ではあると思います。あなたが受身で医者や理学療法士が痛みを治しますという医療機関ではなく、あなたの自主性が大切と言って一緒に努力しサポートしてくれる医療機関が望ましいと思います。
理学療法なども全く効果の出ない重度の慢性痛に苦しむ線維筋痛症の患者様もいらっしゃるようです、本当に原因究明が急がれることを望みます。
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